諏訪湖花火大会におけるDJI FlyCart 30を活用した初島からの花火筒回収運搬実証
毎年8月15日に長野県諏訪市で開催されている「諏訪湖花火大会」において、使用された花火打ち上げ用の筒の回収運搬実証が行われました。
今回の実証では、DJI社の物流用ドローン「DJI FlyCart 30」を活用し、従来の課題を解決する新たな物資輸送手段の可能性が示されました。

諏訪湖と初島 ― 花火大会の舞台

諏訪湖の中央には「初島(はつしま)」と呼ばれる小さな島が浮かんでいます。面積はわずか約0.6ヘクタールですが、諏訪湖で唯一の島であり、毎年8月15日に開催される「諏訪湖湖上花火大会」の打ち上げ拠点として知られています。
島内には「初島神社」があり、諏訪大社と同じ神を祀る鳥居も設けられていることから、神聖な場所としても大切にされています。
諏訪湖花火大会は全国的にも有名なイベントで、例年およそ4万発もの花火が打ち上げられます。多くの観光客が訪れ、湖上を彩る迫力ある花火の光景は、夏の風物詩として定着しています。
従来の運搬方法とその課題

花火大会で使用される花火筒は、初島までボートで運搬されてきました。筒は大小さまざまで重量もあり、運搬作業には複数人の人手が必要でした。
さらに近年では、諏訪湖内で藻の繁殖が進み、ボートのスクリューに藻が絡まるトラブルが増えています。
藻が絡まると航行が妨げられ、作業時間が延びるだけでなく、ボートの安定性にも影響を及ぼします。
そのため花火師や運搬関係者の間では、「作業の安全性確保」や「時間効率の低下」といった問題が長年指摘されてきました。
FlyCart 30による実証の取り組み

今回の実証は、諏訪湖安全対策警察連絡協議会会長の横山氏と、花火の制作から打ち上げ・回収までを担当する株式会社小口煙火の小口氏の協力のもとで実施されました。
使用したのは、DJI社製の物流用ドローン「DJI FlyCart 30」です。最大積載量30kgを誇り、長距離飛行にも対応可能な次世代の輸送機体です。
実証では、諏訪湖の湖畔から初島までの約1.2kmを飛行経路とし、デュアルパイロット運用で実施しました。
デュアルパイロット運用とは2名の操縦者が中継する形で飛行させる方式で、送信機の伝送範囲を考慮しながら安全な飛行を実現するものです。
今回運搬したのは、小型花火筒3基と大型花火筒1基で、総重量は約20kgと17kgでした。これを5回のフライトで合計約97kg運搬しました。花火筒のサイズに応じて荷下ろし拠点を大小に分け、柔軟に対応しています。
基本的には自動航行で飛行し、荷物の積み下ろしやピンポイントでの着地調整時のみ手動操作を行いました。
<運搬した花火筒>

今回の実証では、重量物を運搬する際のバッテリー消費を考慮し、ウインチの巻き上げ機構は使用せず、延長ロープを活用しました。これにより、効率的かつ安全に荷物を下ろすことができました。
実証当日の様子
実証当日は、従来のボートによる運搬と並行してFlyCart 30での空輸を実施しました。午前中のうちに運搬作業をすべて完了し、作業効率の高さが確認されました。
花火師からは次のような声も寄せられました。
「従来の方法では藻を避けながら運搬するため時間がかかっていましたが、ドローンによる空輸であれば藻の影響を受けずに効率的に運べます。バッテリーの持続性を考慮しても、近い将来、実運用が十分可能だと感じました。」
実証の意義と今後の展望
今回の実証実験は、地域の伝統行事を支える裏方の作業にドローンを導入するという新たな試みであり、花火大会の安全性や効率性の向上に直結する大きな一歩となりました。
また、諏訪湖に限らず、日本各地の湖沼や離島でも同様の課題を抱える地域は少なくありません。FlyCart 30をはじめとする物流用ドローンは、そうした地域課題の解決にも応用が期待されます。
特に、
● 浅瀬や藻などの水中面などの影響に左右されにくい空輸手段
● 労力・人件費の削減
● 短時間での大量輸送の実現
といった点は、今後の社会インフラ整備や災害時の物資輸送にもつながる可能性を秘めています。
今回の花火筒運搬実証は、その第一歩として大きな意義を持つものとなりました。
伝統と最先端技術が交わるこの取り組みは、花火大会を支える人々の負担軽減だけでなく、将来的な地域防災や物流改革にもつながる新しい道を示しているといえるでしょう。

実証の様子を動画で見たい方は以下の動画をご覧ください。