【検証】離島における設置型ドローンによる“完全遠隔”測量運用モデルを実証 @長崎県宇久島

〜前田建設工業株式会社様のご依頼により、離島の建設現場で自動飛行+リモート解析を実施〜

 

株式会社システムファイブ(本社:東京都千代田区)は、離島のメガソーラー建設現場における測量業務の完全自動化・遠隔運用に向けて、DJI Dock 2(以下Dock 2)とDJI Matrice 3D(以下Matrice 3D)を活用した実証実験を実施しました。本取り組みは、施工を担う前田建設工業株式会社様(https://www.maeda.co.jp/)より、「造成現場の土量、構造物の体積や緑地面積を正確かつ効率的に把握したい」とのご相談をいただいたことをきっかけに始まりました。

 

写真:長崎県佐世保市にある宇久島の様子

 

写真:島内のメガソーラー建設現場の様子

     

    離島ならではの課題に、無人・遠隔運用で対応

     

    今回の実証実験の舞台となったのは、本土からフェリーで約3〜4時間、さらに車での移動を経てようやく到達できる、離島に位置するメガソーラー建設現場でした。 このような遠隔地では、測量業務のために現地へ赴くだけでも大きな労力を要し、移動や作業にかかるコストや時間の効率性の面で課題が生じやすく、施行者にとって負担となるケースが少なくありません。

    図:宇久島へのアクセス方法

     

    写真:フェリーから見える宇久島の様子

    加えて、建設現場は山間部の広大な造成地であり、高低差のある複雑な地形や天候の急変といった過酷な条件に直面していました。従来のように測量技術者による人力測量では、これらの環境下での作業に長時間を要し、高所や危険なエリアでの作業では転落などの事故リスクも伴うため、安全上の大きな課題がありました。また、広範囲の測量には数日を要することも珍しくなく、効率性の面でも改善が求められていました 。 

    写真:実際の工事現場

       

      提案内容:完全自動・遠隔完結の測量ワークフロー

       

      システムファイブは、これらの複合的な課題に対し、画期的な運用モデルを提案しました。それは、「初回設置さえ完了すれば、以降すべての測量・解析作業を事務所から完遂できる」という、Dock 2とMatrice 3Dを活用した完全自動・遠隔完結の測量ワークフローです。

      今回のワークフローは、以下のステップで実施いたしました。

      1. 建設現場の現地調査(初回訪問)

      2. DJI Dock 2の設置・調整(現地作業はここまで)

        Dock 2は前モデル比で体積が75%小さく、重量も68%軽減され、わずか34kgと2人での運搬が容易です。これにより、遠隔地での設置作業の負担が大幅に軽減されます。また、IP55の防塵防水性能を備えているため、過酷な気候条件下でも安定した運用が可能です 。  当日も雨が降っている時間帯がありましたが、問題なくDock 2は作動しました。(※電源部分の防水加工は必須です。)

        Dock 2には、RTKアンテナが内蔵されております。Dock設置時に現地座標と位置キャリブレーションを行うことで、DockをRTKの固定局として扱うことができるため、数センチ以内のデータが取得ができます。

        今回は検証のため、簡単に設置をしただけですが、設置の度に位置キャリブレーションを行えば、それぞれ取得した写真データと現地座標との整合性がとりやすくなります。
      写真:DJI Dock 2の設置場所

      1. 飛行ルート作成(事務所で設計・設定)

        事務所からDock 2を遠隔操作するために必須となるソフトウェアであるDJI FlightHub 2(以下FlightHub 2)を通じて、遠隔で詳細な飛行ルートを計画・設定します。
        FlightHub 2(https://fh.dji.com/login)はDJI産業用ドローンの管理用Webアプリケーションで、インターネット環境さえあればデバイスを問わず利用可能です。

        今回は、前田建設工業様より測量してほしい範囲をKMLデータでご共有いただいたので、そのままFlightHub 2にインポートすることでエリアを確定しました。  

      写真:宇久島全体像

      写真:飛行エリア(DJI FlightHub 2の画面)

      飛行予定エリア自体は合計で約150haと大変広く、今回は時間の都合上、約3割の50haを飛行させることができました。今回の検証デモでは離発着場は事務所の近くに設定をしたため、飛行エリアと離発着場は1km以上離れておりました。

      また、離発着場と飛行エリアの間にドローンが飛ばせない牧場があったため、飛行禁止エリアもあらかじめ設定しました。

      写真:飛行エリア(3D)

      また、FlightHub 2では2Dマップと高度データを組み合わせた「2.5次元マップ」を採用しており、Dock 2とドローン間に地形の障害があること(遮蔽)が確認できました。そのため、ドローンとDockの通信が切れないように、ドローンの飛行高度を高め(対地高度100m)に設定しました。

      実際Dockを現地に設置する際は、こういった障害物の影響を少なくするために、なるべく高度の高い屋上のような場所に設置することが必要になってくるかと思います。

       

      1. 自動飛行の実行とデータ取得(Dockが現地で無人実行)

        Dock 2には、風速計と雨量計が搭載されているので、設置場所の風速や降雨量などのリアルタイムの気象変化を感知し、遠隔地にいながら安全な飛行が実現できます 。

        ※特定飛行に該当する飛行になります。今回は飛行するパイロットが国土交通省から飛行許可を得た上で行っております。

         

        また、Dock 2の専用ドローンであるMatrice 3Dは、約50分の飛行時間とDock 2から半径10kmの運用範囲を持ち 、搭載されたRTKモジュールによるセンチメートルレベルの測位精度(±3cm)と6方向障害物検知システムをもっているため、安全かつ高精度なデータ収集が可能になります。

        以下の動画では、Matrice 3Dが飛行する様子をお届けします。広大な範囲であったため、途中でバッテリーが少なくなったため自動でDJI Dock 2へ帰還する様子・途中の飛行禁止エリアである牧場を自動で回避する様子をご確認ください。
      動画:Dock 2 + Matrice 3D 飛行の様子
      1. 取得データのクラウド連携と解析(事務所で処理・評価)

        取得されたデータは自動的にFlightHub 2にアップロードされ、FlightHub 2上でオルソ画像・3Dメッシュモデルを作成しました。オルソ画像・3Dメッシュモデル・写真点群をFlightHub 2上で作成する場合、解析中はクラウド上のエンジンを使用しているため、何かしらPCでFlightHub 2にアクセスしておく必要はなくPCを起動しておく必要もございません。

      図:FlightHub 2で作成したオルソ画像を依頼書に投影したもの

       

      図:FlightHub 2で作成した3Dメッシュモデル

      このワークフローの最大の特長は、一度Dockを設置すれば、現地への再訪は不要となる点です。以降の運用はすべて、ネットワーク接続された事務所からリモートで実施できます。これにより、離島への頻繁な移動が不要となり、大幅な省人化とコスト削減が実現します。

        ※Dock 2 / Dock 3はメーカーより半年ごとの点検が推奨されているため、点検の際は現地への訪問の必要があります。

        ※遠隔地からの飛行は特定飛行に値するため、国土交通省からの許可承認を取る必要があります。

        成果:省人化だけでなく、運用品質・安全性も向上

         

        この完全自動・遠隔完結のワークフローにより、以下のような多岐にわたる成果が得られました。

        • 測量頻度の大幅な向上と現地作業ゼロの実現: 従来の課題であった現地へのアクセス困難性や測量技術者の負担が解消され、測量頻度を大幅に向上させながら、現地での測量技術者による作業をゼロにすることができました。
        • 安全面での課題解消: 人が立ち入ることが困難な高低差のある地形や、天候急変のリスクがある環境下でも、ドローンが自律的に作業を行うため、現場の調査や点検のために作業員が危険な場所に立ち入る必要がなくなり、安全に作業を続けられるようになりました。

        • リアルタイムの状況把握と迅速な意思決定: FlightHub 2を介して取得データが即座に共有されるため、事務所からリアルタイムで現場の映像確認をすることで、災害後の即時状況把握が可能となりました。
        • 高精度な定量分析と報告: Matrice 3DのRTK搭載による高精度な測位能力と、Dock 2の堅牢な性能により、雨天や強風下でも安定した自動運用が可能となり、遠隔地にいながら土量や緑地面積の正確な定量分析と報告が可能となりました 。 

        図:3Dメッシュモデルから算出した構造物(雨水マス)の体積

         

        図:オルソ画像から算出した緑地面積

         

        課題およびまとめ:広大な範囲の測量の場合の通信の安定性・バッテリー問題

        今回の宇久島のような、高低差が100m近くあるような地形の凹凸が激しい現場では、Dockとドローンとの通信が切れることが多く、計測範囲を全て飛行せずに途中帰還することが多かったです。Dockの設置場所の選定にも原因はありますが、携帯基地局を利用したドローンの上空LTEサービスを活用することで通信が切れずに運行できるようにすることも1つの手であるかと感じています。

        また今回使用したドローンであるMatrice 3Dは、飛行時間が約50分ではありますが、実際飛行する際はDockに戻ってきた時点でバッテリー残量が30%になるよう安全設計がされているため、実質的な飛行時間は約30分に限られます。そのため、計測地点と離陸地点との距離が離れすぎているとその分往復分のバッテリー消費を考慮しなければいけません。本検証は何度か飛行を分けて行われたのですが、一度の飛行で計測できる範囲は約10haほどでした。

        このような広範囲での計測を実施する際は、ドローン1台に対してDockを複数台を設置するマルチドック機能が活用できます。マルチドックを利用すれば、広範囲のエリアを測定した後、離陸したDockではなく計測場所により近いDockに着陸することで、バッテリーの消費を節約できます。

        当社でもマルチドック機能について検証した記事もございますので、併せてお読みいただければと思います。▸https://dji-info.system5.jp/blogs/enterprise/dji-dock-3-dji-matrice-4-obstacle-sensing-modul

        最新機種であるDJI Dock 3および専用ドローンMatrice 4Dシリーズでは、バッテリー問題が大幅に改善されています。まず、飛行時間は54分へ延長されました。さらに、Dockに戻る際のバッテリー残量は15%まで設定可能となり、その結果、実質的な飛行時間は約45分となり、より広い範囲での測定が可能になっています。

        システムファイブでは最新機種DJI Dock 3について情報をまとめたポータルサイトを公開しております。サイトはこちら▸https://dji-info.system5.jp/products/dji-dock3

        今回の実証は、離島や山間部といったアクセス困難な現場での測量業務に大きな可能性を示しました。DJI Dock 3を活用した遠隔測量にご興味がある方は、是非システムファイブへお問い合わせくださいませ。