鉄道車両点検を自動化~常設型ドローンポート「DJI Dock 3」の活用~
1. 検証の背景
少子高齢化に伴う労働力不足や、インフラの老朽化への対応は、現代日本の地域交通が直面する大きな社会的課題です。特に、地域住民の足を守る鉄道事業者にとって、毎日の安全運行を支える車両点検作業の効率化と安全性向上は最優先の課題となっています。
こうした課題に対し、解決策の一つとして注目されているのがドローンポート「DJI Dock 3」および産業用小型ドローン「DJI Matrice 4TD」の活用です。
本記事の要点
過酷な環境下での運用に耐えうるDock 3と、ハイブリッド112倍ズームカメラ・RTK位置補正技術を備えた機体を組み合わせることで、ドローンによる鉄道車両点検の自動化・省力化に向けた実証実験が進められています。
2. 現場が抱える課題と悩み
鉄道車両の点検、特に車両の屋根上に設置されたパンタグラフや各種機器(主ヒューズ、直流避雷器など)の外観点検は、これまで作業員による高所作業や目視点検が中心でした。今回のデモでは、従来、人が行っていた一次点検をドローンで行い、点検箇所を絞り込むことで作業を効率化できるかを検証するものです。
現場には次のような深刻な課題や悩みが存在しています。
屋根上点検作業では常に転落事故リスクが伴い、作業員の安全確保が最優先事項。
毎日の仕業検査において、限られた時間内での入念なチェックに膨大な工数が発生。
今回の現場の架線には約2万Vが通電。感電リスクが伴います。
一般的な在来線の電車の架線には直流1,500ボルトが主流となりますが、今回の現場では交流2万ボルトという高電圧な環境となっております。これは新幹線の架線に流れている交流2万5,000ボルトに近い数字です。この特徴的な環境から「安全確保」「工数削減」「高電圧環境への対応」というハードルが、現場の大きな課題となっていました。
3. Dock 3での定期点検~課題解決のために~
こうした現場の悩みを解決するのが、「Dock 3による日常点検の自動化・遠隔化」というアプローチです。
1. DJI Dock 3 + Matrice 4TDの強み
従来のドローンは「パイロットが現場に行って操縦する」必要がありましたが、自動発着・充電が可能なドローンポート「DJI Dock 3」を常設することで、遠隔からの自動飛行指示が可能になります。また、Dock 3を制御するソフトウェア「DJI FlightHub 2」を使用して、飛行したい時間を設定して定期的な自動航行が可能になっています。毎回、飛行の設定を行う必要はなく、一度自動航行を設定すれば、設定したスケジュールに沿って自動飛行できる点がDock 3の強みです。 定期的な自動航行の設定はタスク計画プラン、もしくは自動ワークフローにて、設定が可能です。
※DJI FlightHub 2 タスク計画プランや自動ワークフローについては以下からご確認ください。
▶タスク計画プラン
▶自動ワークフロー
※タスク計画の定期自動飛行設定
2. RTKによるセンチメーター単位の精度と安定飛行
定期点検で同じ飛行ルートを使用する場合、機体の位置精度の正確さが求められます。RTK測位を利用することで、機体の位置情報を高精度に取得でき、同じ飛行ルートを再現する際の位置のばらつきを抑えることができます。センチメートル級の精度で飛行することにより、点検対象物を同じ画角で撮影することができ、点検個所の比較も容易となります。
1回目の飛行と2回目の飛行で撮影した写真の座標を抽出して、誤差がどれくらいかを比較しました。
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較差 | |||
| 最大値(m) | 最小値(m) | 平均値(m) | 標準偏差(m) | |
| 緯度方向(X) | 0.085 | 0.000 | -0.006 | 0.035 |
| 経度方向(Y) | 0.079 | 0.001 | 0.000 | 0.037 |
| 水平(XY) | 0.093 | 0.002 | 0.046 | 0.052 |
| 高さ(Z) | 0.032 | 0.001 | 0.004 | 0.013 |
最大値でも10cm以内に誤差が収まり、標準偏差で見ると約5cmほどなのが表から確認できます。同じ飛行ルートを実行したときに位置精度が安定していることがわかります。
RTKを使用しない場合は、RTK測位と比較して位置精度が低下するため、建物や構造物に接近するフライトや、同じ画角で撮影したい場合などには、位置情報を高精度に取得できるRTKが有効です。
▶RTKについてはコチラから
3. 高性能ズームカメラによる安全距離からの点検
架線へ過度に接近することなく、架線上から上空10mなどの距離を確保した位置からズームカメラで撮影することで、パンタグラフのボルト締め状態やスリ板の破損などを鮮明に確認できます。Matrice 4TDはハイブリッドズーム112倍を搭載。危険領域やアクセス困難な場所でも、遠距離から詳細な現場状況を正確に把握することが可能です。

4. 車両管理センターにおける実証実験
1. 実証内容
■検証条件
飛行・撮影データの精度検証:
①高度10mからの自動飛行実演において、設定ルートからの逸脱がないか。
②電波干渉による通信途絶が起きないかを検証。
■運用想定回数
毎日運用の定着化を目指して:
将来的には、毎日の車両点検にあわせてDock 3を稼働させる想定で運用システムを構築。
手動作業を極力減らし、定期自動点検として落とし込むプロセスを描いています。
【架線近くでの飛行実証】
前述の通り、今回の架線には2万Vもの高電圧が通っています。架線付近でのドローン飛行では、機体のコンパスに影響を与える磁気干渉や、通信環境への影響などが懸念されます。
今回の飛行では、一番近くまで接近した距離が架線から約4mまでの飛行を実施しましたが、磁器干渉によるエラーは発生せず、安定した飛行を確認しました。
別の機体では磁器干渉によって、制御が効かなかったことがあったという話を現場でお聞きしましたが、無事、計画したミッションを遂行しました。

飛行の様子
※許可を取って飛行しています。
【高精度な確認箇所】
- パンタグラフの外観(ボルト・編銅線・補助スリ板や主スリ板の破損確認)
- 屋根上機器の外観(直流避雷器の取付確認、主ヒューズの状態確認など)

撮影条件:倍率9倍

撮影条件:倍率2.6倍
同じルートを使用して定期的に飛行させる場合、DJI FlightHub 2で撮影した画像を写真のタイムライン機能で比較できます。
以下はDJI FlightHub 2の画面となります。今回同一ルートを2回飛行させており、撮影した写真がタイムライン順に並んでいます。

この機能を活用して、2つの時期を選択、比較することも可能です。ルートと撮影写真が結びついているため、改めてデータを整理する手間はありません。

同じ場所で撮影した写真同士を比較することも容易です。
5. 実証実験を経た評価と今後の期待
今回の実証実験を通して、鉄道設備点検におけるドローンの安定性と実用性が実証されました。
確認された技術的成果および、今後の運用に向けた主な評価ポイントは以下の通りです。
高圧架線付近での安定性
- 2万ボルトという非常に高い電圧が通る架線から約4mまで接近する飛行においても、磁気干渉によるエラーは発生せず、安定した自律飛行性能を確認できました。
- 高性能ズームカメラにより、安全な離隔距離を保ちながらパンタグラフのボルトやスリ板の損耗状態を鮮明に確認でき、目視による一次点検を効率化する手段として有効性が確認されました。
日常点検の自動化による安全性の確保と効率化
- DJI Dock 3を活用して毎日決まった時間にドローンで自動的に検査を行えれば、作業員が高所に登る頻度を大幅に削減し、現場の安全性向上と身体的負担の軽減に寄与します。
- 定期的な仕業検査の自動巡回により、人手不足の解消と点検工数の削減を両立することが期待されます。
データの保存と確認方法の効率化
- 点検結果をデジタル画像データとして一元的に保存・管理できる点も大きなメリットです。
- DJI FlightHub 2を活用することで、同一飛行ルートで撮影した過去の写真をタイムライン順に並べて比較分析できるため、経年劣化の推移把握や異常箇所の早期発見が容易になります。
6. まとめ
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架線付近でのドローン運用に関するノウハウの蓄積:
今回の実証環境では、架線から約4mまで接近した飛行においても磁器干渉によるエラーは発生せず、安定した飛行を確認できました。 -
社会インフラ点検への広範な汎用性:
鉄道業界はもちろんのこと、電力設備の変電所・送電線点検、高所プラント、大型構造物の点検など、これまで人が危険を冒して行っていた「高所・高電圧などの危険領域」の点検業務へ応用が可能です。
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